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カヤック東京湾ほぼ一周 vol.5「多摩川から鶴見川へ」

  • 執筆者の写真: roki
    roki
  • 7月22日
  • 読了時間: 5分

更新日:7月23日

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 調布から多摩川を約23キロ下った。東京湾に出ようと思えば、そのまま真っ直ぐに2キロほど行けば羽田(空港)だ。多摩川の河口であり、東京湾の入り口でもある。

 距離的には問題ない。しかし、簡単に上陸出来そうな場所が見当たらない。羽田空港は警備が厳重で近づき難いし、航空写真で付近を調べてもコンクリートでガチガチに護岸されている。(セキュリティ上、当然なのだが)

 それならばと、地図上で目を東に転じてみると、多摩川の河口から10キロほどのところに鶴見川があった。ここならば砂の河岸が残っているかもしれない。

 なんならば、そのまま沿岸部を漕ぎ続けて行けば、いつか日本一周できるんじゃないか?

 どうせ漕ぐなら、それくらいの目標を持ってやろう。無謀にも、そう思ってしまっていた。


 エグジットを鶴見川河口部の何処にするか? 地図上で候補地を三ヶ所ほど見つけ、実際に車で現場に行ってみた。しかし、状況は羽田方面と大差なく、かなり難易度が高そう。

 諦めかけて鶴見川を渡る産業道路(鶴見大橋)を東京方面に戻る最中、川上の小さな白い砂浜が目に(文字通り)飛び込んできた。


 あそこだ!

早速、車をUターンさせ、現場に向かった。


「鶴見川河口干潟」

ゴミが目立つが、小さな白い砂浜があった。河口から2キロ近く遡ることになるが、満潮時に上手く合わせられれば…

 とにかく、他に上陸地点は無さそうなので、行ってみるしかない。


 2013年6月某日、いよいよスタート。潮は引き潮。河口付近の下りには好都合だ。


 巨大な大師橋(産業道路)をくぐると、直ぐに川の中ほどに草の鬱蒼と生い茂る島が現れた。ここは住所的には川崎市で、「バードアイランド」という名称が付いているようだ。あまり鳥の姿は見えなかったが。

バードアイランド
バードアイランド

 

 更に下ると、腰まで水に浸かって本格的に貝採りをしている人が見えた。邪魔をしないように少し距離を置いてカヤックを漕いだ。

 後に調べて分かったが、この辺りの干潟では大きなアサリも採れるらしい(当時)。


 羽田空港を川の反対側に見ながら、右に直角に曲がり「多摩運河」に入ろうとした。

が、意外に多摩川の流れが速い。タイミングよく曲がり切れず、危うく運河に入り損ねて流されるところだった。必死に漕いで、何とかコースを回復。


 ここからは、いよいよ京浜工業地帯。右も左もコンクリートの壁。何処にも避難する場所はない。水の色は、それまでの薄い茶色から更に濃さを増し、エビ茶色… 。濃厚な「鉄さびスープ」といった感じの色。


 浮島橋の下をくぐった。運河は真っすぐなのだが、真っすぐ漕いでいるつもりでも、何故か舟は右に寄ったり左に寄ったりした。


 それは船尾に当たる風のせいなのだが、そんな基本的なことも当時は分からず、微妙な潮流が運河の中にもあるのか?と思っていた。


ふと右を見ると、大きな魚影が!

エイだった。全長50㎝くらい?

エイと並走
エイと並走

 舟と並行して水面付近を悠々と泳いでいた。慌てて(防水バッグからガラ携を取り出し)撮影。更に近づこうとしたら、エイは悠々と水中に消えていった。


 多摩川で漕いだ時にも感じたが、カヤックは静かに進めるので、魚が逃げる事は少なく、直ぐ近くまで接近できる。魚から見れば、何か大きなゴミが浮かんでいるなぁ、位の感覚だろうか?


河岸の工場から突き出した構造物の下を漕ぐ。

干潮の時間帯で良かった。満潮だったら、頭がつかえていたかもしれない。

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ところで、右の写真の下の方に足が写っているが、普通のシーカヤックだとこんなことはない。波を被っても水が入らないように、必ず「スプレイスカート」で開いている部分を覆う。

 が、当時はそんな知識すらなく、ボート感覚で「前を開けたまま」乗っていた。

 我流カヤックの危険性に気付いたのは、それから6年後、伊豆でカヤックを失った時だった。


ブオ、ブオ、ブオっと、製油所の煙突から炎が唸り出ていた。

呼吸をしているようだが、だとすると随分と荒い息だ。

吹き上がる炎
吹き上がる炎

 この少し先の対岸には製鉄所があり、ドーンドーンと大きな振動が伝わってきた。

心臓音。。。日本の産業の。


京浜工業地帯・・・ 

この場所は、10年先はどうなっているだろうか? 



 航空写真でも地図でも「行けるはず」の水路が多くの艀で塞がっていた。やむを得ず迂回。

 塩浜運河に入ると強い東風を真正面から受け、なかなか舟が進まない。しかし、少しづつでも進むしかない。でないと転覆しそうになってしまう。


 直線で1.5kmほど。全く休むことなく必死で漕ぎ続けた。肩の筋肉がパンパンになっているのが分かる。小用も済ませたい。


 ようやく漕ぎ切り、右に直角に曲がる。

しばらく行くと、そこに引き潮で出来た小さな砂浜が!

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 助かった。急いで近づき上陸した。小用を済ませ、今のうちにと、立ったまま握り飯を頬張った。口を動かしながら、目の前の田辺運河を行きかう巨大なタンカーや貨物船をぼーっと眺めた。巨大な船が通過する度、足元に小さな波が押し寄せた。


 束の間の休憩後、東風を左から受けながら真っすぐ4km。行く手は遥か先に見えてはいるのだが、見えれば良いというものでもない。あまりの距離に気が遠くなりそうだった。


 日が西に傾いた頃、漸く鶴見川の河口にさしかかった。

ここから更に川を2kmほど遡らなければならない。


 既に潮が満ちてくる時刻ではあったが、川の流れが逆流するほどではまだなく、まったりとした静水の上をひたすら漕いだ。


 水が舟の中に入っていて、尻が濡れて気持ちが悪かった。不快感から逃れるには、目的地に早く漕ぎつくしかなかった。

(舟底に小さな穴が開いていることに気づいたのは、ずいぶん先の話)


 陽が沈む! 焦りながらパドルを動かし続けた。

太陽よ、待ってくれ
太陽よ、待ってくれ

 ついに白砂の干潟が見えてきた。七時間……漕いだ。漕ぎ終えた。

「鶴見川河口干潟」に無事上陸。


 カヤックを解体している間に完全に夜になった。少し遠くの街灯の明かりを頼りにバッグに道具一式をしまった。犬の散歩をしていた近所の人が不思議そうに見ていた。


 海水に濡れた後のカヤックは重い、気がする。カートに括り付けて旧東海道をぶらぶら歩き、鶴見線の国道駅から電車に乗って、今回の出発地点である川崎大師近くの駐車場まで帰った。


(つづく)


 
 
 

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(photo & comments by Hiroki Kawamura)

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